亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「……待たせたな」

 ヴィルジールが差し出した腕に、ルーチェははにかみながら自分の手を添えた。この国に来て間もない頃は、立ち振る舞いがよく分からなかったが、勉強をした甲斐があったのか、ヴィルジールが驚いたように目を瞬かせていた。

「ヴィルジールさま?」

「……何でもない。行くぞ」

 ルーチェと城の外に出ることは内密にしているのか、見送りに来ていたのはエヴァンと数名の騎士だけのようだ。彼らは綺麗に横に並んで深々と頭を下げると、行ってらっしゃいませ、と明朗な声を掛け、二人を送り出した。


 城門を出ると、目の前には緩やかな坂があり、その先には巨大な広場が見えた。それを囲うように並ぶのは、三階建てくらいの煉瓦造りの家だ。

 今日は広場で何かを催しているのか、人々で賑わっている。

「とても賑やかですね。何かやっているのですか?」

「花市だな。月に一度だけ、あの広場では少し変わった市を催している。誰でも、どんな物でも売っていい場所だ」

 大人でも子供でも、道端の草花でも畑で取れた物でも、手作りの衣類でもどんな物でも構わない。そう語るヴィルジールの目は、なんだか煌めいて見えた。 

「その花市というのは、昔からあるのですか?」

「いや、五年ほど前からだ。東の国を視察した時に、がらくた市というものを見て、それを取り入れた」