亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「では行こう」 

「陛下、まさか歩いて行かれるので?」 

 くるりと正門へとつま先を向けたヴィルジールに、エヴァンが驚いたような声を上げる。

「無論、そうだが?」

「女性を歩かせるのですか!」

 ヴィルジールはエヴァンを振り返ると、呆れたように溜め息を吐いた。

「城から馬車で行ったら目立つだろう」

「だからって、か弱い女性を歩かせるなんて!」

「あの、私は徒歩でも構いませんよ」

 ルーチェは小さく笑いながら、二人の間に入った。本当はどちらでも構わないのだが、ここは誘ってくれたヴィルジールの肩を持つべきだろうと思い、隣に立つ彼の顔を見上げる。

「……だ、そうだ」

「引きこもりの陛下は民に顔を知られていないでしょうけど、聖女様の顔を知る方が居たらどうされるのです?」

「どうもこうも、近づいてこようが相手にしなければいい話だろう。……それに」 

 ヴィルジールはルーチェを見遣ると、コートのポケットに両手を突っ込んだ。

「避難民どもは城下ではなく、セシルの領地で面倒を看てもらっている。一人残らずな」

 やれやれ、とエヴァンが息を吐く。セシルという人物を信用しているのか、ならば良いのですが、と納得したように頷いた。