亡国の聖女は氷帝に溺愛される

(で、出掛けるって……?)

 それが自分を知ることとどう関係があるのだろうか。
 何から尋ねればいいのか、何と尋ねるべきか。そう迷っていたルーチェの頭に、ヴィルジールの大きな手が乗せられる。

 顔を上げると、ヴィルジールの目が真っ直ぐにこちらを見ていた。彼はいつもの無表情で、淡々と静かに告げる。

「──無論、俺とお前の話だ。ルーチェ」
「っ……!」

 ルーチェは口をぱくぱくさせた。突然のことに、頭の奥がくらくらする。

 触れられて、見つめられている。それも一瞬ではない、今この瞬間も、ヴィルジールの手の温度を感じる。

 どれも初めてのことではないのに、どうしたらいいのか分からない。言葉どころか呼吸の仕方さえも忘れてしまいそうだ。

 それは、どうしてなのか。
 その答えを探す間もなく、ヴィルジールの手は離れていく。

「……もう夜も遅い。早く部屋に戻れ」

「……ヴィ、ヴィルジールさまも」

 辿々しいルーチェの声に何か思うところがあったのか、ヴィルジールはとてもささやかな微笑を滲ませると、ふらりと右手を振ってから踵を返した。

 まるで、“またね”の挨拶のようだ。

 冷酷だと恐れられている男の意外な一面を見たルーチェは、どこからともなく現れたセルカに声を掛けられるまで、ヴィルジールの背中を見つめていたのだった。