テラスから飛び降りたルーチェを、ヴィルジールはしっかりと受け止めてくれた。落ちる寸前に閉じた目をゆっくりと開けると、視界いっぱいにヴィルジールの綺麗な顔がある。

「ありがとうございます」

 ルーチェは慌ててお礼を言い、ヴィルジールから離れようとした。だが、ルーチェを抱き止めた両腕は、今もその細い身体に回されたままで。

「……陛下?」

 ヴィルジールはルーチェの声でハッとしたように目を開くと、すぐに腕をほどいた。あろうことか、羽織っていた上着を脱いで、ルーチェの肩に掛けてくる。

「夜は冷えるから着ていろ」

 ルーチェはこくりと頷き、灰色のカーディガンに包まった。

 真夜中のヴィルジールは、昼や夕に会った時よりも静かで寂しげな印象を受けた。前髪を下ろしているせいで、翳りがあるように感じられるのかもしれない。

 ルーチェはヴィルジールとともに、庭園にあるベンチに腰を下ろした。水が流れる音に耳を傾けながら、隣を見上げる。

「どうして、この離宮の前にいらしたのですか?」

「散歩をしていたら、気づけばここに来ていて……泣いているお前が目に入った」

 ヴィルジールが散歩をする姿が想像できなくて、ルーチェは思わず笑みをこぼしていた。