亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「──お前が国を滅ぼした聖女か?」

 オヴリヴィオ帝国の皇帝・ヴィルジールは、銀色の髪と青い瞳を持つ美しい男だった。まるで作り物のような瞳は、見つめられるだけで凍ってしまいそうなくらいに冷たく、一切のあたたかみを感じられない。

 誰もが畏怖する男の前に連れてこられた少女は、縄で上半身を縛られ、両膝を床に着かされた状態で、玉座にいるヴィルジールを見上げていた。

「分かりません」

「分からない、とは?」

「何も憶えていないのです」

 少女がそう告げると、背後で佇んでいた騎士が手に持っていた縄を勢いよく引いた。少女を縛っている縄がぎゅっと締まり、思わず苦しげな声が漏れる。

「貴様、よくもそのような事をッ……!」

 怒りを露わにした騎士は、縄を握る手に更に力を込めた。

 自分へと向けられる負の感情と強い痛みに、少女は思わず目を閉じたが、その時間は続かなかった。

「誰の許可を得て、貴様は動いている」

 恐ろしく冷たい声が頭上から聞こえ、少女は顔を上げた。

 そこには先ほどまで玉座にいたヴィルジールの姿があり、刃物のように鋭い視線を騎士に注いでいた。