(知りたい。イージスに何があったのか。聖王様はどこにいるのか。私の力の使い方もっ……)

 ルーチェはいくつもの願いを空に掛け続けた。両手で自分の身体を抱きしめながら、ひたすらに。応えてくれる星の光も人の声もないけれど、それでも願わずにはいられない。

 全てを忘れてしまった自分に、今から出来ることはあるだろうか、と。

 ルーチェはその場にずるずるとしゃがみ込んだ。目の先の白色の石床には、無数の涙の跡がある。

 泣いたってどうにもならないことくらい、分かっていた。だけど、今のルーチェには何が出来るのか、いくら考えてもそれすら分からないのだ。

 地面に縫い付けられたように動けなくなっていた、その時。冷たい風に頬を撫でられたような気がして、ルーチェは少し顔を上げた。

「……え……」

 ルーチェは人影を見つけて、目を丸くさせた。
 白い柵の向こう──この離宮の門の向こうに、誰かが立ってこちらを見上げている。重い腰を上げ、柵に手をつきながら半身を乗り出して目を凝らしてみると、その姿が鮮明に映った。

 深い青色の瞳に、見つめられている。前髪が下りている所為だからか、表情が暗く見える。

 ルーチェは囁きのような声で、星空の下にいる人の名を呟いた。