イージスの民。かつてルーチェが過ごしていた国で、聖王とともに庇護していたはずの存在。亡国の民となってしまった彼らは、ルーチェがひとり帝国の街に足を踏み入れた時、口を揃えてこう言っていたのだ。

 どうして生きているのか。お前のせいで。お前が聖王をころした、国も消した、と。

 そして、のちに現れた光の竜も言った。──その聖女は大罪を犯した、とも。

 ここまで言われた身で、そんなはずはないと言い返せるわけがないのだ。

「聖女」

 ノエルの凛とした声が響く。霧を払うような澄んだ声に、視線を持ち上げられずにはいられない。

「聖王と聖女は比翼の鳥だと云われている。どちらかが欠けると、もう片方も死ぬ……だから聖女が生きているなら、聖王様も生きている」

「それは確かなことなのか?」

 声を発せずにいるルーチェに代わるように、ヴィルジールが問い返す。真摯な眼差しで頷き返したノエルは、右手をじっと見つめていた。

「イージスの文献で読んだことがある。それに、聖王様も言っていた。聖女が死んだら、自分も死ぬと。だから……どこかで生きているはずだ」

 ノエルが伏せた瞼に、長い睫毛が揺れる。美しい黄金色をルーチェは見つめていたが、その向こうで顔も名前も分からない人に想いを巡らせていた。