亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 祝福を授かり、髪色が変わったというノエル。ならばルーチェの髪色が金色から白銀色へと変わったのは、祝福とやらの影響なのだろうか。

 だとしたら、ルーチェは誰の祝福を授かったのだろうか。

「イージスで何が起こったのか、お前は知っているのか?」

 ここに来てからひと言も発していなかったヴィルジールがようやく声を出した。

 ノエルはルーチェからヴィルジールへと目を移すと、ゆっくりと睫毛を伏せる。

「事が起きた時、僕はマーズに居たから。だから……詳しいことは何も」

「お前はルーチェのことを知っているそうだな」

 ノエルが目を瞬く。ルーチェとは誰だ、と言わんばかりに。そこでルーチェは「私です」と声を出した。

 ノエルは驚いたように目を丸くさせていたが、すぐに笑んだ。

「……そっか。素敵な名前をもらったんだね」

「皇帝陛下に頂いたのです」

 ルーチェは隣にいるヴィルジールを見上げる。相も変わらず無表情で、何を考えているのかはさっぱり分からない。

 トン、とノエルが指先でテーブルを弾く。途端に淡い緑色の光が湧き、そこから一輪の花が咲いた。

 ノエルはそれに息を吹きかけると、花はルーチェへと飛んでいった──かと思いきや、さらさらと光の粉になって消えた。