亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 円形のテーブルを五人で囲む。ルーチェの右にはヴィルジールが、左にはエヴァンが。エヴァンの隣にはアスランがおり、アスランとヴィルジールの間にはノエルがいる。

 場を仕切るのはエヴァンなのか、彼はグラスを手に柔らかく笑うと乾杯の音頭を取った。

「聖女様とノエル様はお知り合いなのですね?」

 困惑するルーチェに、ノエルが凛と微笑みかける。

「そうだよ。魔法が下手くそだった聖女に、色々と教え込んだのは僕だからね」

「流石はマーズの大魔法使い様ですね」

「その、マーズというのは……?」

「マーズというのは、この大陸の南にある魔法大国のことです。中央にはイージスが、北には我が国が。東西にも国があります」

 ルーチェは頭の中で何となく地図を描いた。ルーチェが居たというイージスと、マーズの魔法使いであるノエルにはどんな接点があったのだろう。

「そこの聖女がここに来た時と同じ髪色なのは、何か理由があるのか?」

 仏頂面なアスランが質問を投げかける。棘のある言い方だったが、ノエルは気にも留めない様子で小さく笑むと、自分の髪を指先でくるりと弄った。

「この髪は聖王様に祝福を授かった時に染まった。生まれはマーズだけど、僕はイージスに五年近く居たから」

「その祝福というのを授かると、髪色が変わるのか?」

「さあね。僕の他に授かった人に会ったことがないから、詳しいことは知らない」

 ノエルは誇らしげな顔をすると、探るような眼差しをルーチェに向けた。