亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 ヴィルジールが手を翳すと、扉が発色した。ギギイ、と音を立てながらゆっくりと開いていき、全開になったところで目が眩むような光が満ちる。

 思わずぎゅっと目を瞑る。やがて落ち着いたのを感じてから、目を開けていくと、目の先にはノエルと名乗った金髪の少年が佇んでいた。

「やっと会えたね。聖女」

 ノエルは顔を綻ばせると、指先に乗っていた小さな鳥に息を吹きかけた。途端に、その鳥の羽は橙を帯びた赤色に染まり、ぶわりと炎を纏いながら空へと飛び立っていく。

「……凄い……」

「魔法使いですからね。ノエル様は」

 ルーチェは鳥を見送ってから、ノエルと向き直った。

 肩の辺りで切り揃えられている金の髪に、ぱっちりとした碧色の瞳。菫色の石のイヤリングが耳元で揺れ、右手の中指にも同じ石が嵌め込まれている指輪が光っている。

 まるでお人形のような美しい顔立ちをしているノエルは、ルーチェよりもいくつか年下に見える。

「改めまして、僕の名前はノエル。マーズの当代大魔法使いだよ」

 ノエルはふわりとお辞儀をする。その作法には見憶えがあるような気がしたが、記憶を巡らせる間もなく、エヴァンが間に入ってくる。

「お二人とも、まずは奥の部屋に行きましょう。軽食を用意させてあります」

 ぱん、とエヴァンが手を叩き、にっこりと笑う。エヴァンが指す部屋は小道の先に見えた。

 ヴィルジールが黙って歩き出したので、ルーチェもその後を追いかけた。