亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「つまり私は縁談避けなのですね」

 ルーチェの推理に、ヴィルジールは笑みとは分からないだろうささやかな表情を浮かべた。

「間違いではない。……許せ」

 ヴィルジールに連れ出されたルーチェは、気づけばホールの中央にいた。周囲の人間から見られていることに変わりはないが、手を取り合う男女の姿が多く見られる。

 ピン、と弦を弾く音がした。楽団が音の出を確かめているようだ。

 状況を理解したルーチェは、足を止めてヴィルジールの腕に絡めていた自分の手を放した。

「許します。その代わりに、私と踊ってくださいませんか」

 ヴィルジールの眉が跳ね上がる。 

「踊れるのか」

「それは分かりません。ですがせっかく綺麗にして頂いたので、このドレスのためにも踊ってみたいと思ったのです」

 ルーチェはその場でくるりと回った。ふわりと靡いた裾から、きらきらと光が発せられる。

 ヴィルジールが選んでくれたこのドレスのために、何かしたいと思ったのだ。記憶がないので、自分のことすらよく分かっていないルーチェに出来ることがあるとしたら、彼の縁談避けにも役立つであろうダンスくらいではないか、と。

「……たかがドレスのためにか。まあいいだろう」

 ヴィルジールは手を伸ばすと、見つめ合うルーチェにしか分からない、小さな微笑を飾った。