亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 高い場所からホールを見下ろしていたヴィルジールが、下に降りてきただけでも驚くべきことだというのに。彼は今、聖女を迎えに来たかのように現れた。

 同じ髪色をした見目麗しい二人が目を合わせている光景に、人々の目は釘付けだ。

「……とても素敵なドレスを贈ってくださり、ありがとうございます」

 ルーチェは左脚を少しだけ後ろに引き、膝を曲げて優雅にお辞儀してみせた。晩餐会の時よりは進歩しているであろう、最上級の礼儀作法を。

「エヴァンよりはいい趣向をしているだろう」

 ルーチェは三拍置いたのちに笑った。ヴィルジールはエヴァンが晩餐会のために用意してくれたドレスと比較しているようだ。

 好みでないとは言っていたが、だからといってまさかヴィルジールがドレスを贈ってくれるだなんて。

「良いのですか? 私なんかがこのお色を……」

 ルーチェは今一度ドレスを眺めた。首から胸上にはレースがあしらわれているこのドレスは、マーメイドのようなデザインで、膝下から広がる裾には小さな銀色の宝石が散りばめられている。

 初めて見た時、なんて素敵なのだろうと思わず顔が綻んでしまったほどだ。

「黙って着ていろ。それだけの価値があるということだ」

 ヴィルジールはルーチェの手を取ると、ゆったりとした足取りで歩き出した。