亡国の聖女は氷帝に溺愛される

(聖女と呼ばれ、感謝して頂いても──私は、あの時の力の使い方が分からないというのに)

 ただ一度の奇跡を起こしただけ。それだけのことで、聖女と呼ばれ、聖女として扱われるのだろうか。

 これからの人生をどんなふうに生きたいのか、その答えもまだ見つかっていない。

(なのに、いいのかな)

 息苦しさに似たものを感じた時、ルーチェの前方にいた人たちが、道を開けるように左右に分かれていった。

「──ルーチェ」

 耳を打つ声に、ルーチェは俯きかけた顔を上げる。

「……皇帝陛下」

 歩みを止めたルーチェの元へと、ヴィルジールが歩いてくる。銀色の髪を靡かせ、青い瞳にはルーチェだけを映して。

 ヴィルジールはルーチェの目の前で足を止めると、薄い唇を開いた。

「……悪くない」

「──っ!」

 満足げに呟かれたそのひと言に、ルーチェは瞳を瞬かせた。

(そ、それって……やはり……)

 ドレスの裾を握る指先に力が入る。やはりこのドレスの贈り主はヴィルジールだったのだ。

 添えられていたメッセージカードの文を見て、確信はしていた。だが、本人の口から聞けるまでは──と思い、こうして着てきたのだ。

 禁色とも言える、鮮やかな青色のドレスを。