亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 式典は宰相のエヴァンの開会の挨拶から始まり、主催者の挨拶、祝辞、乾杯と滞りなく進んでいった。

 招待客として招かれたルーチェは、用意された席から見物していた。彼らがいる位置からは見えないよう配慮されている、両傍にカーテンがある二階席だ。

 ワイングラスを片手に会話を楽しんでいる人たちを眺めていると、背後のカーテンが捲られる。現れたのは長袖の黒いドレス姿のセルカだ。

「ルーチェ様、陛下がお呼びです。下に参りましょう」

 ルーチェはゆっくりと立ち上がった。あの人混みの中に行くのは気が進まないが、ここに来た目的の一つを果たさなければならない。

「分かりました」

 ルーチェはセルカに導かれるようにして、静かに歩き出した。歩みを進めるたびにドレスの裾が揺れる。揺れるたびに、贅沢に散りばめられている小粒の宝石がきらきらと輝き、ルーチェの美しさを際立たせていた。

「──聖女様ではないか!なんとお美しい」

「見ろ!聖女様がお越しになったぞ!」

 ルーチェの登場に気づいた者が声を上げ、それを聞いた者がまた声を上げる。御礼を、ご挨拶をと人が押し寄せてきては、セルカに追い払われている。その光景には既視感のようなものがあった。

 おそらく、聖女としてイージスで過ごしていた頃にも、このようなことがあったのだろう。