赤色のケープが靡く。その下から覗いた同じ色の衣装には、金色の月の刺繍が入っている。どこかの国の紋章のようだが、イージス神聖王国のものではない、気がした。

「それは聖王様しか知らない。貴女の名前を呼べるのは、この世でただ一人だけだから」

 少年は寂しそうに笑うと、目元を乱暴に拭ってからルーチェと向き直る。

「俺はノエル。氷帝に呼ばれて、マーズから来た」

「マー、ズ……」

 マーズとはどこにあるのだろうか。ルーチェのことを知っている少年を、ヴィルジールが呼び寄せた理由は何だろう。

 何から訊けばいいか迷っていると、慌ただしい足音が近づいてくる。現れたのは、先ほど挨拶したばかりの使用人・ロイドだった。

「──ノエル様!こちらにいらっしゃいましたか」

 ノエルは悪戯に成功した子供のような表情をすると、軽やかな足取りで外へと向かっていく。だが、門の手前で足を止めて、ルーチェを振り返った。

「……話の途中でごめん。色々と話したいことがあるけど、氷帝を怒らせたら面倒くさそうだから」

「ノエルさん……」

「しばらくこの国に滞在することになったから、また会えるよ。なんなら明後日にでも」

 ノエルは優しく笑うと、アーチの向こうへと消えた。