亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 そこには酷い顔をしている少女が写っていた。髪や顔は汚れ、瞳に正気は失く、唇は乾燥で荒れている。

 無意識に指先で髪に触れていることに気づいたのか、女性が少しだけ顔を近づけてきた。

「湯浴みを致しましょうか。すぐに用意させます」

「あのっ……」

 少女は衝動的に女性の衣服を掴んでいた。表情ひとつ変えない女性の顔をおずおずと見上げ、それから開きかけた口を閉ざす。

 女性は何度か瞬きをしたが、衣服を掴んでいる少女の手に触れると、優しく包み込むように握った。

「私はセルカと申します。皇帝陛下よりお世話を命じられました」

「……セルカさん」

「セルカ、とお呼びください。さあ、御手を」

 セルカと名乗った表情に乏しい女性は少女を立ち上がらせると、ゆっくりとした足取りで隣室へと導くのだった。

 隣室は大きな浴室だった。剥ぎ取るように衣服を脱がされた少女は、セルカの手を借りて湯の中に身体を沈めた。

 湯には無数の青い花びらが浮かんでいた。名前も知らない花だが、不思議と心が落ち着く良い香りだ。

 セルカは無駄のない動きで少女を綺麗にしていった。