「貴方という人は──!宝石とかドレスとか、離宮を与えるとか、色々とあるでしょうに!花束ひとつ贈れないだなんて!」

 ヴィルジールの眉間に皺が寄る。唐突な説教に面食らっている様子だったが、すぐにその口はもぞもぞと動く。

「好みでなかったら困るだろう。嫌いなものを贈られた仕返しに、塞がった傷口を開かれたらどうするつもりだ?」

「どうするもこうするも、聖女様はそんなことは致しません!」

 ヴィルジールはガクガクと肩を揺すぶられながら、明後日の方角を見た。誰もが恐る氷帝にこんなことが出来るのは、後にも先にもエヴァンだけだろう。

 だが、不思議なことに、嫌だとは思わないのだ。煩わしく感じることはあっても、視界に入っても気にはならない。

「欲しいものはあるかと尋ねたんだが、何も要らないと」

「はあ、さすがは聖女様ですね」

 だからと言って──と、またエヴァンが説教を始めるのが分かっていたヴィルジールは、エヴァンの身体を引っ剥がした。

「何だったら満足するんだ」

 投げやりな問いかけに、エヴァンは満面の笑みで頷く。

「僕だったら、このオヴリヴィオ帝国の聖女様としてお迎えしますね。数百年ぶりに現れた聖女様として迎え、この城で丁重にもてなすべきかと!」

「……はあ」

 嬉々とした表情で提案したエヴァンに、ヴィルジールは冷めた目を送った。それも頭の片隅に浮かんではいたが、最善だとは思えなかったのだ。

(──ルーチェ、か)

 たったひとつのを名を贈っただけで、泣いて喜んでいた少女の顔が浮かぶ。
 白銀色に染まった髪は、とても優しい色をしていた。