亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「思い出したのは、力の使い方だけか?」

「あの時は必死だったのです。もう一度できるかは分かりません」

 ヴィルジールは「そうか」と吐くと、夜空へと目を移した。

 ──あの時。ヴィルジールの命の光が消えかけていた時、失いたくないという想いに、何かが応えた。

 それが奇跡を起こしたのだ。だから、使おうと思って使えるものではない。

(……やはり、私は聖女だったのね)

 少女は自分の両手を眺めた。このちっぽけな手は確かに光を集め、ヴィルジールの傷を塞いでいた。目も眩むような光の世界を、今でもはっきりと憶えている。

「おい」

 ヴィルジールの声が降る。顔を上げると、どこか遠くを見るような眼差しをしているヴィルジールと目が合った。

「何か欲しいものはあるか」

「欲しいもの、ですか?」

「ああ。俺の傷を塞ぎ、民の傷も癒すと、国土に巨大な結界を張っただろう。その褒美だ」

 少女はぱちぱちと目を瞬いた。ヴィルジールの手を握り、祈りを捧げたことしか憶えていないからだ。実は自分ではない他の誰かがやったのではないかとも思ってしまう。