亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「もう身体はいいのか」

「お陰様ですっかり良くなりました。素敵なお部屋にドレスまでご用意してくださり、ありがとうございます」

「エヴァンが勝手に選んだものだ。俺の趣味ではない」

 どうやらこの菫色のドレスは、ヴィルジールの命でエヴァンが選んだもののようだ。

 ヴィルジールだったら、どんな色を選ぶのだろうか。上品な所作で料理を口に運ぶ端正な顔を見てから、少女はフォークとナイフを手に取った。

 料理のほとんどが初めて食べるものだった。花束のように盛り付けられたサラダに、ほんのり甘いクリーム色のスープ、コクのあるソースがかかったふっくらとした焼き魚、ほろほろと柔らかいステーキ。

 まるで宝石のような見た目のケーキが出てきて、フォークで崩したくない気持ちと、それでも食べたい欲がぶつかる。

 ケーキを前に悶々としているうちに、ヴィルジールに見られていることに気づき、慌てて姿勢を正した。

「……気に入ったなら、持って来させるが」

「ひ、ひとつで充分です!」

「そうか」

 素っ気ない口調だったが、不思議と声色には優しげな響きが宿っていた。

 結局、ケーキは美味しく頂いた。食後に出された青色の紅茶を見つめながら、寡黙なヴィルジールとの話題を探す。食事中に無理に話す必要はないが、今は違う。