亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 城下の民が全員無事であったこと。竜の攻撃を受けて動かなくなった者が、光に包まれると息を吹き返したこと。聖女の奇跡を目の前で見た民たちが、感謝を伝えたいと城へ押し寄せていること。そうエヴァンは話すと、ジャケットの襟を正した。

「……と、こんな感じです。まだまだお話したいことがありますが、長くなりそうなのでここら辺で。陛下からの伝言をお伝えしても?」

 少女が頷くと、エヴァンは手を叩いた。すると、ドアが開いたかと思えば、荷物を抱えた使用人が二人入ってくる。

「こちらは聖女様への贈り物です。聖女様の体調が良くなり次第、陛下が晩餐会に御招待したいそうです」

「皇帝陛下がですか?」

「ええ、あの皇帝陛下です。傍若無人で鬼畜な私の上司・ヴィルジール様が是非にと」

 エヴァンは箱の一つを手に取り、中から優雅なドレスを取り出し踊るように回る。そんなことをしながらヴィルジールのことを言うものだから、少女は思わず笑みをこぼしていた。

「……有り難く頂戴いたします」

「では、また近いうちに」

 エヴァンは少女の手の甲に口づけを落とすと、使用人を引き連れて出て行った。

「……聖女様」

「何でしょう?」

 セルカに声を掛けられたので、少女は振り返ったのだが。

 セルカは「何でもありません」と首を横に振ると、届けられた贈り物を整理するべく袖を捲っていた。

「…………」

 セルカは仕事に取り掛かる前に、少女を横目で盗み見る。

 黄金色から銀色の髪になった少女からは、戸惑いや恐れといったものはもう感じられず、雨上がりの空のように晴れやかな空気を纏っていた。

 少女のその変化に気づいているのは、きっと、セルカだけなのだろう。