亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 セルカに全身を磨かれた後、豪華な化粧台の前に座らされた。鏡に映る自分の髪は白銀色のままで、髪を洗われても香料を塗られても、元に戻ることはなかった。

 身体を清め、用意された淡い菫色の衣装に袖を通し終えた頃、一人の青年が部屋を訪ねてきた。

「失礼いたします。聖女様」

 青年は優しい笑顔を浮かべると、丁寧に頭を下げてきた。斜め後ろにいたセルカが深々と頭を下げていたので、彼は身分の高い人なのだろう。

「お初にお目にかかります、聖女様。僕はエヴァン・セネリオ。この国の宰相を務めています」

 柔らかなブラウン色の髪が揺れる。瞳は髪と同じ色で、シンプルなデザインだが品の良いスーツを着ている。

 セネリオという名に聞き覚えがあったが、少女も慌てて頭を下げた。

「は、初めまして……」

「お目覚めになられてよかったです。ご気分は如何ですか?」

「何ともありません。ご迷惑をお掛けしました」

 勝手なことをした挙句、その場で倒れたというのに、目覚めたらこんな豪華な部屋を用意されている。素敵なワンピースまで用意され、もう何を返したらいいのか分からないくらいだ。

 だが、エヴァンはそうは思っていないようで。

「何を仰いますか……!聖女様のお陰で陛下は助かり、民たちは皆感謝しているのですよ!あの神々しい光を浴びた者は皆、傷ひとつなくなったのですから!」

 エヴァンはにっこりと微笑んだ。