亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「体調は如何ですか?」

「何もありません……大丈夫です、ます……」

 しどろもどろに返事をする少女を見て、セルカは小さく噴き出すと、何でもございませんと言って頭を下げる。

 少女は髪から手を放し、ぐるりと部屋を見回した。

「セルカさん……あの、ここはお城ですか?」

「はい。貴女様は皇帝陛下の御命だけでなく、民の傷を癒し、この国に強い結界を張られました。その御恩に報いるために、丁重におもてなしをするようにと命が下っております」

 少女はぱちぱちと瞬きをした。ヴィルジールの傷を癒し、気を失ったところまでは覚えているが──そんな大きなことをした記憶はない。

 どうしてあの時、自分の願いに応えるように、力を使うことが出来たのかもよく分かっていないというのに。

「それは皇帝陛下の御命令ですか?」

「勿論にございます。さあ、湯浴みを致しましょう。その後は消化に良い食事を」

 セルカは有無を言わせない顔で少女の背に手を添え、部屋の奥へと歩かせる。衝立の裏にあるドアを開けると、そこは浴室だった。

 少女は思わず身を震わせた。以前使った浴室よりもずっと広く、何より豪華すぎるのだ。