亡国の聖女は氷帝に溺愛される

(思い出して、わたし。わたしは、聖女だったのでしょう?)

 少女は静かに息を吐ききり、己の内に問いかける。すると、本能なのか別の何かなのかは分からないが、胸の内から何かが溢れ出てきた。

 内なる光が、少女に何かを告げている。

 耳を澄ませると、いつかどこかで聞いたことのある声が、聞こえてくる。

──触れて、想って。遠ざかんとする光を求めて。

 少女は全神経を指先に集中させ、ゆっくりと目を閉じた。そして、息を吸っては吐いてを繰り返し、指先を通してヴィルジールに呼びかける。

(──ヴィルジール、さま)

 その名を呼んだことはまだ一度もない。どうして手に触れたのかも分からない。けれど、これだけは分かる。

 死んでほしくないのだ、もう誰にも。これ以上目の前で失いたくない。

「お、おい……あんた……」

 アスランの戸惑った声が聞こえる。その周囲からはざわめきが起こっていた。

(命の鼓動よ、私に応えて)

「(──よ。何を求める)」

 今度は頭の奥深くから、低い声が響いてきた。願いの代わりに何を捧げるか、と問いかけてきている。

 少女は胸の内で静かに微笑った。

(この者に癒しを。この地の民に希望の光を。私の──と引き換えに)

 少女が祈るように空を仰いだ、その時。

 その瞬間、少女の胸元が光り出した。