亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 竜の爪がヴィルジールの肌を抉る。片膝を着きながらもヴィルジールは右手を上げたが、その手から氷が生まれることはなく、彼は地面に沈んだ。

 少女はヴィルジールに駆け寄った。

「皇帝陛下っ……!!」

 ヴィルジールは左肩から腹部にかけて大きな傷を負っていた。止めようにも両手では押さえきれないほどの傷口からは、ごぽごぽと血が流れ出てきている。

「(なかなかの味だな。聖女の血肉には劣るが)」

 竜は爪に付着した血を舐めとると、満足そうな様子で再び空に上がる。そして、勝利を思わせる声を空に響き渡らせると、翼を羽ばたかせながら雲の向こうへと消えた。

 少女は苦しげに呻くヴィルジールの顔を覗き込んだ。

「陛下……陛下、私の声が聞こえますか?」

 ヴィルジールは少女に応えるように一度だけ目を開いたが、すぐに閉ざしてしまった。

 このままではヴィルジールは死んでしまう。どうしたものかと思ったその時、青い髪の騎士が血相を変えて駆けつけてきた。

「──ジル!っ……くそ、さっきの竜にやられたのか!」

「アスラン、さん……」

「俺の名を呼ぶな!忌まわしい聖女め!」

 アスランはヴィルジールの傍に膝をついていた少女を勢いよく突き飛ばすと、くしゃりと顔を歪めた。彼の後ろからは白服の集団が、疲弊した様子で向かってきている。