亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「(奴には劣るが、中々の力だ)」

 竜はヴィルジールをじっと見ている。その軀に傷はひとつもなく、鋼のような鱗がただ輝いている。

「……俺を誰と比較している」

「(我が喰らってやった、愚かな男のことよ)」

 竜は小さく喉を鳴らすと、ヴィルジールの後を追ってきた少女へと目を向けた。その目は懐かしいものでも見るかのように細められる。

「(──お前は、あの時の聖女だな)」

 ヴィルジールが驚いたように振り返る。追いかけてきていたことに気づいていなかったのか、少女を見ると目を見張っていた。

 竜はぐぐっと首を下げ、少女の顔を覗き込んだ。近くで見ると大きな宝石のような真紅の瞳には、まだ見慣れない自分の姿が映っている。

 自分なのに、自分であると受け入れられない顔には、困惑の色が浮かんでいた。

「……やはり、あなたは私を知っているのですね」

「(知っているとも)」

 竜はきゅるきゅると笑うと、ゆっくりと首を起こした。

「(よく聞け、王の子よ)」 

 そう呼ばれる理由がわからないヴィルジールは顔を顰める。

「(──その聖女は、大罪を犯した)」

 竜は愉しそうな声を響かせると、巨大な脚を上げ、ヴィルジール目掛けて鉤爪を振り下ろした。