亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 炎の戦場と化した城下に現れたヴィルジールを見て、人々は言葉を失くした。

 逆らう者には罰を、罪を犯した者のことは氷漬けにしてきた、慈悲の欠片もないと云われている皇帝が、真っ直ぐに避難所へ向かって来ているのだ。

「こ、皇帝陛下……?」

「皇帝陛下じゃ……本物じゃ…」

 霧が立ち上る中、表情一つ変えずに竜と対峙したヴィルジールは、人々の目には神のように映っていた。

 ヴィルジールは左手を足下に翳す。その瞬間、地面から無数の氷の柱が出て、民とヴィルジールとの間に巨大な氷の壁が作られた。

「──アスラン!生きているなら早く民を城へ」

 ヴィルジールは竜を見据えたまま声を張り上げる。すると、氷の壁の向こう側──避難所に居たらしいアスランが、部下たちに指示を出すのが聞こえた。

 少女は馬から降りた。羽織っていた外套を馬に掛けてやり、ヴィルジールの元へと駆け出す。

 どうしてかは分からないが、止めなければならない気がしたのだ。あの竜を──いや、ヴィルジールを止めなければ、よくないことが起きると、自分の中の何かが告げている。

「──おやめください、皇帝陛下っ……!」

 少女が制止の声を上げたのと、ヴィルジールが氷の刃を竜に突き立てたのは同時で。竜の胴に穴を開けたかと思われたそれは、氷の細やかな粒子となり、竜の周りに散った。