亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 馬を走らせること数分。避難所の手前で、空を舞っていた竜が地に降り立つのが見えたところで、ヴィルジールが馬の手綱を引いた。

「まさか魔法障壁が破られるとは」

 魔法障壁とは何かを尋ねる必要はなさそうだ。彼の目を追った先には、ヒビの入った光のドームが炎に包まれている。

 それは避難所と呼ばれていたもので、中にはたくさんの人が逃げ込んでいた。それが今、竜によって襲われている。

 民の悲鳴が響き渡る中、騎士たちが必死に応戦していた。だが、巨大な竜の口から生み出される火の玉に為す術がないのか、彼らはドームを内側から守るように両手を上げ、様々に光を放っている。

「ここで俺の馬を見張っていろ。馬を死なせたらお前も殺す」

 ヴィルジールはマントを翻しながら軽やかに地面に降り立つと、右手で氷の剣を生み出した。冴え冴えとした光を放つその刀身からは凄まじい冷気が感じられる。

 きっと、あの竜を討伐しに行くのだろう。襲われている民を救けるために、皇帝自らが。

 これまでの炎とは比にならない熱気を含んだものが、竜の口から生成されようとしている。それに気づいたヴィルジールは氷の剣を巨大化させ、走りながら竜に向けて解き放った。

 ヴィルジールの氷剣と竜の炎が激突する。その剣は竜の炎に飲み込まれるのではないかと思われたが、突き刺すように炎の中に入ると、凄まじい光を放ち、辺り一面に光る粉雪を降らせた。

「──貴様は誰の許可を経て、汚らしい炎を俺の民に吐いている」

 煌々と舞う氷の残骸を浴びながら、ヴィルジールは竜を見据えた。