亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 燃え盛る建物の間を走り、声がする方へと直走る。暑くて堪らなくて、汗が滝のように流れたが、足を止めるわけにはいかない。

 散らばる無数の瓦礫の隙間では、動かなくなった人も混じっていた。人の身体の一部だったものも、酷い怪我をしている人たちまで転がっている。

「あ、あんたはっ……」

 通り過ぎようとする少女に、声を掛ける人もいた。怯えたような眼差しで何かを訴えかけられたが、その人はそれ以上声を出すことなく、涙を流しながら事切れる。

 泣きたくなるような光景だ。凄まじい炎に、思わず呻きそうになる錆びついた匂い。そして、辺り一面に転がるのは、動かなくなった人たちの山だ。

 少女は胸の前で手を握りしめ、そっと目を閉じた。どうしてそうしたのかは分からない。息をするように、身体がそう動いたのだ。

 その時、その瞬間。大きな羽ばたきの音が響き渡り、少女の身体を浮かせたかと思えば、勢いよく後方に吹き飛ばした。

 少女は背中を打った衝撃で顔を顰めたが、すぐ近くから悲鳴が聞こえたので、弾かれたように振り向くと、避難しようとしていたらしい親子の姿が目に入る。

「い、いやあああああ!」

 親子は少女ではなく、少女の後ろにある何かを見て叫んでいる。自分を覆う大きな黒い影に気づき、少女は顔を上げた。