亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 あの襲撃の夜から十日。竜の急襲によりオヴリヴィオ帝国の首都では多くの怪我人が出て、城の一部も倒壊するという惨事に見舞われた。

 かつてイージス神聖王国を滅ぼした竜の爆炎から人々を救ったのは、亡国の聖女とこの国の皇帝であるヴィルジールだ。

 城門に向かうと、そこには艶やかな翼を毛繕いしているフェニックスと、契約主であるノエル、そしてファルシの姿があった。

 ルーチェの訪れに一番に気づいたのはノエルで、嬉しそうな顔をしながら手を振っている。

「──聖女、氷帝。見送りに来てくれたの?」

「そんなところだ」

 ルーチェは隣にいるヴィルジールの顔を見上げた。ついさっきまで見送りを渋っていたというのに、悠然とした表情でノエルたちを見ている。

「ヴィルジールさま」
「何だ」
「何だ、ではありません。さっきと違うではありませんか」
「何のことだ?」

 ふ、と。ヴィルジールの口の端に笑みが滲む。

 ルーチェは呆れ混じりな溜め息をひとつ吐いてから、ノエルとファルシに向き直った。

「ノエル、体に気をつけてね。いつでも遊びにきてね」
「ありがと。呼んでくれればいつでも行くよ」
「ファルシ様も、どうかお元気で」

 泣きそうな顔で言ったルーチェの頬に、ファルシの手が添えられる。