オヴリヴィオ帝国、首都ソルビスタ。この象徴とも云える皇城から、美しい鐘の音が鳴り響く。
 鐘を鳴らしたのは宰相であるエヴァンだ。

「──まるで春の陽気ですね。陛下」

 エヴァンが振り返った先には、青色のマントをはためかせているヴィルジールの姿がある。いつになく華やかな礼服を身に纏うヴィルジールは、宙を舞う花を眺めていた。

「春は好きじゃない。暖かくて眠くなる」

「そうですか? ぽかぽかして気持ちがいいではありませんか。ね? ルーチェ様」

 エヴァンに呼ばれて、ルーチェが振り返る。

 ヴィルジールと同じ色合いのドレスを着ているルーチェの頭には、青い宝石が煌めくティアラが載せられている。

 ルーチェは花開くように笑うと、ヴィルジールに右手を差し出した。

「行きましょう、ヴィルジールさま。ノエルとファルシ様を見送りに行かなければ」

「見送ったところで、あの魔法使いはいつでもどこでも現れるだろう」

「そういう問題ではありません。また会う日まで元気でね、と別れの挨拶をすることに意味があるのです」

 ヴィルジールは呆れたように溜め息を吐きながらも、ルーチェの右手を取った。