ルーチェの背から黄金色に輝く翼が広がっていく。剣を手に歩みを進めていくルーチェは、神々しい光を纏っていた。

 そこにいるのはルーチェなのに、ルーチェではない別の誰かのように感じられたヴィルジールは、思わず手を伸ばしていた。触れることはおろか、届くはずもないと分かっていながら。

 竜と対峙したルーチェは、嘆き悲しむ赤色の双眸を見上げた。

「──始まりの聖王、エクリプス様。今、解き放って差し上げます」

「(ぐあああああっ! やめろ!私はっ───)」

 ルーチェは剣の柄を握る手に力を込める。使い方なんて知らないというのに、自然と身体が動いているのは、きっと、ソレイユが力を貸してくれているのだろう。

 ルーチェは顔を上げ、怯むことなく剣を振り上げる。

 振り下ろした剣が竜の鱗に触れると、そこからばらばらと竜の身体は崩れ、裂け目からは目も開けていられない量の光が飛び出してきた。

 反射的に閉じた瞼の裏側で、声が響く。

 王よ、私はここにいると。そしてまたひとつ声が響く。愛しい者よ、もう置いていかないでくれと。

 閉ざされていく光の世界で、ルーチェはふたつの影を見た。ひとつはファルシと同じ陽色の髪の青年を、ふたつめに銀色の髪を靡かせる菫色の瞳の美しい女性を。

 ──ありがとう。

 その優しい声を最後に、ルーチェは崩れ落ちた。