ルーチェは力を振り絞って、重い身体を起こした。自分の身体なのに、思うように動かない腕を、手を、彼の頬へと伸ばす。

「ヴィルジールさま」

 弱々しく奏でられたルーチェの声を拾うように、ヴィルジールの顔が近づけられる。

 ルーチェはえい、と頭を振り、ヴィルジールの額に自分の額を軽く合わせた。

 こつん、と。いつかの日のように、額と額が合わさる。初めて重ねた時は、熱を測るために。しかしその行為は、いつしか相手を想い、その心に温かい光と優しい気持ちを伝えるための術となった。

 だが、この行為は本来は違う意味を持っている。それを思い出したのは、本当の名と記憶を取り戻した時だ。

「わたしは、あなたのことが、だいすきです」

 額と額を合わせ、互いの温度を確かめ合うようなこの行為は、イージスでは愛する者に愛を伝える方法だった。家族や恋人、大切な人たちに、今日も愛していると。

「…………ルーチェ」

 ヴィルジールの瞳が見開かれ、美しい青が波打つように揺れる。

 吐息がかかる距離で伝えた想いを、彼はどう受け止めたのだろうか。

「……はい」

 ルーチェは微笑った。あふれる気持ちを胸に、ヴィルジールから顔を離す。そうして、色を失くしていく彼の右手に触れ、そっと光を灯した。