ヴィルジールは剣からルーチェへと目を動かした。

 ルーチェの身体には竜の爪が突き刺っている。かつてその爪にヴィルジールは肌を抉られたことがあるが、余りの痛みにすぐに意識を手放してしまった。

 だが、ルーチェは。今もなお、竜を見据えている。何かを伝えるように、竜の瞳を見つめ続けている。

(……守ると、誓った)

 ヴィルジールは右の手のひらを握りしめた。

 いつだって真っ直ぐに自分を見つめてくれていたひとりの少女を想い、ゆらりと顔を上げる。

(あの笑顔を守れるのなら、何だってしてやりたいと思った)

 ヴィルジールは自分に回されているエヴァンの腕に、こつんと頭をぶつけた。国の為、そして幼き頃の自分が誓ったものを守るために、全身全霊で止めてくれたエヴァンの想いに応えるように。

「ジル……?」

 ヴィルジールは「ああ」と頷いた。そうして、するりとエヴァンの腕から抜け出し、相も変わらず澄んでいる焦げ茶色の瞳を見つめ返す。

未来(あした)の話をするのは、今目の前にある命を救ってからだ」

「……ジル」

 ヴィルジールは飛ばされた剣を一瞥してから、竜とルーチェを振り仰いだ。