亡国の聖女は氷帝に溺愛される


 世界が鮮烈に発色する。目を開けると、びっくりするくらい近くにヴィルジールの顔があった。

 頭の中で過去の出来事らしきものが映し出されてから、どれくらい経ったのだろうか。胸の鼓動が跳ねるように動いているのを感じながら辺りを見回すと、最後に見た時と状況は変わっていないようだった。

 上空には竜と戦うファルシとノエルとその精霊たちが、下ではヴィルジールにエヴァンとセシル、騎士団の人たちがどうしたものかと策を考えている。

 ルーチェはゆっくりと立ち上がり、火の粉を吐き続けている竜の姿を目で追った。

(──今、わたしが視ていたものは……聖女ソレイユと、竜になってしまった聖王。そして、聖女の剣を受け取った少年だわ)

 この短時間でルーチェの脳裏に映し出されていたものは、遥か昔に起きた出来事のようだった。

 イージスを襲った魔獣の大群から国を守るために、聖王が身を賭して国を守り抜いた。だが、その代償として聖王は人を喰らう化け物になってしまった。

 見た目は竜そのものだが、その実態は人を喰らい続ける、悍ましい化け物で。

 我が身を犠牲に化け物になってしまった愛する人が、誰のことも傷つけないように──聖女ソレイユは呪いをかけたのだ。

 その呪いこそが、何十、何百年とイージスで行われてきた儀式だったのだ。