亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 そして女性は力尽きたが、生まれたばかりの赤子を置いてゆくことは出来ず──女性の望みを叶えるかのように、一頭の霊獣が女性と赤子を乗せて空を翔んでいた。

 だが、母子を乗せていた霊獣は魔獣の群れに襲われ、北の大地に落ちてしまった。

 ──ああ、あなただけでも……生き延びてくれたら。

 最早虫の息だった女性が、最後の力を振り絞ろうとした時。
 ひとりの少年が、女性に手を差し伸べた。

 ──どうしてこんな場所に人が……。大丈夫ですか?どこか痛むところは?

 ──坊や……。

 女性は微笑った。聖獣が守り抜いてくれた赤子と共に、一本の剣を差し出した。その剣は、愛する人が片腕と引き換えに生み出した、破魔の剣だ。

 ──心優しい坊や。貴方にこれを託しましょう。よいですか、いつか、巡り巡った私の魂がこの地を訪れたら、その剣をお返しください。

 ──……この剣は?

 ──聖女の剣、とでも名付けましょうか。貴方がわたくしの子を守ってくださる限り、その剣は貴方の剣となり盾となりましょう。どうかその力で、わたくしの子を……とを……。

 ──待ってください! あなたはっ……!?

 ──我が名はソレイユ。……の……で──。

 きらきらと、光が散る。星のような銀色の髪は黒く染まり、その女性──ソレイユは光の粒子となって消えたのだった。