亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 景色は美しい人が獣へと姿を変える瞬間から、真っ暗闇な空間へと変わった。何もない無の世界からは、女性が啜り泣く声が聞こえてくる。

 耳を澄ましていると、真っ暗な世界に純白の雪が降り出していた。はらはらと落ちていくそれは、今も泣き続けている女性の涙のように思える。

 ──どうしたらわたくしが、あなたを殺せましょう。

 ぽうっと光が浮かび、そこから人影がくっきりと現れる。泣いていたのは銀色の髪の女性だった。

 ──愛する貴方に、全てを背負わせてしまった。……せめて、わたくしにできることをしなければ。

 女性は赤子を抱いたままふらりと立ち上がると、そのまま覚束ない足取りでどこかへ向かっていく。彼女は見えない道を歩いていたが、ふと足を止めた。

 道の先に、黄金色の髪の子供が現れたのだ。

 ──母上。私がこの地に残り、王を封じましょう。

 ──ならばこの母は、魂と引き換えにこの地に呪いをかけましょう。王が心を取り戻すまで、誰のことも傷つけないよう。

 女性は子供を抱きしめると、決して唱えてはいけないまじないの言葉を口にしていく。

 すると、彼等が過ごした城は真っさらな色に染まり、緑は空を覆うように広がり、美しい水源はするりするりと伸びて城を囲んでいった。