竜は何故、このオヴリヴィオ帝国を襲いにきたのだろうか。ルーチェもヴィルジールもマーズに居たというのに。聖王が自分の中で生きていたことにも、気づいていなかったというのに。

 ルーチェはファルシの言葉を思い返した。

 ──何故またあの竜が、この国を襲っている?
 ──また、か。ならば聖女であるフィオナを誘き寄せる為ではないね。ここにはあれを引き寄せる何かあるのだろう。

 竜の目的が聖女を喰らうことならば、ルーチェはとっくに死んでいるはずだ。ルーチェが竜と間近で対面するのは、今日が初めてではないのだから。

 だとしたら、ルーチェはなぜ喰われなかったのだろうか。あの竜は何をするために、この地に現れたのだろうか。

 考えても考えても、ひとつも答えが見つからなかったその時。びりびりとした何かが、ルーチェの頭の中を駆け巡った。

「────ッ?!」

 ルーチェは咄嗟に頭を押さえ、その場にしゃがみ込んだ。すぐに気づいたヴィルジールが目線を合わせるようにして蹲み込み、ルーチェの肩にそっと手を添える。

「ルーチェ。どこか痛むのか?」

 ふるふると、ルーチェは首を左右に振った。
 大丈夫だと伝えるために視線を持ち上げると、今度は頭の中に知らない景色が映し出されていった。