何の音かと上を見ると、天井にヒビが入っていた。そこから裂けていくかのように、天井ががらがらと崩れていく。

「──皆さん、逃げて!!」

 天井まで聳えていた巨大な柱が傾いたのを見て、エヴァンが声を張り上げる。誰もが勢いよく床を蹴って駆け出す中で、ルーチェはただひとり、倒れてくる柱を前に動けずにいた。

「ルーチェ!!」

 そんなルーチェの手を、ヴィルジールが掴んだ。そのまま力強く引いてルーチェを抱き寄せると、倒れゆく柱へと向かって魔法を放つ。

 冷たい、とても冷たい空気が駆け巡り、柱へと向かって伸びていく。青い光を纏うヴィルジールの魔法は凄まじい速さで柱のまわりを回り、蔦のように巻き付いてゆくと、傾く柱の動きをぴたりと止めた。

「──兄上!ルーチェ様っ!!」

「──問題ない」

 立ち上る霧の向こうから、ヴィルジールとルーチェの身を案じるセシルの声が伸びてくる。

 ルーチェはヴィルジールの腕の中で、目の前で止まった柱を──それを止めた氷の結晶を見て、静かに息を呑んでいた。

 青く美しい氷は、突き立てられた剣のようにも見える。

「ルーチェ、怪我はないか」

「ありません。助けてくださり、ありがとうございます」

 ルーチェはヴィルジールに支えられるようにして立ち上がった。ぽっかりと空いた天井の穴を見ると、暗い空で戦っている三つの光が見える。

 ──どうしたら、この状況を変えられるのだろう?