だが、その方法はファルシが許さないだろう。その宿命を背負ったルーチェを救うために、彼はかつて、儀式の最中に竜の軀に剣を突き立てたのだから。

 だから、竜は怒ったのだ。十五年に一度の餌を得られなかった竜は、巨大な口を開けると、終焉の炎でイージスの地を焼き尽くした。

 ヴィルジールはマントを脱ぎ、エヴァンの手を借りて鎧を着ている。鮮やかな青色の剣帯には、オヴリヴィオ帝国の国花の刺繍が入り、彼の剣の柄にはウィンクルムを模した細工が彫られている。

 見事な意匠の剣に見入っていると、ふとあることを思い出した。

「──聖女の、剣」

 ヴィルジールがルーチェを見遣る。

「突然どうした」

「以前、仰っていたではありませんか。聖女ソレイユ様が、聖女の剣の話をされていたと」

 あれは、ルーチェが襲われた夜の出来事だ。

 遥か昔にヴィルジールの祖先と盟約を交わした聖女・ソレイユがルーチェの元を訪れ、そしてヴィルジールにも言葉を残していった。

 この地には、ソレイユが自身と引き換えに生み出した、聖女の剣という──聖者を滅ぼすことができる剣があると。