亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「──被害は以前の三倍になります。報せを聞いて、すぐに緊急事態を報せる鐘を鳴らし、騎士団を救援と警護に向かわせましたが、何分夜間だったので……」

「言い訳はいい。首都の外からの連絡は?」

「首都外では火事の報告が数件ありましたが、怪我人はおりません。祖父が──セネリオ伯爵がすぐに防壁を開放し、民を避難させました。ただ、城下では怪我人が多く、死人も出ています」

 簡易的な報告書に目を通すヴィルジールの顔が、くしゃりと苦いものに変わる。

「こうしている間にも、魔法使いと聖王が戦っている」

「策を講じましょう。あの竜を滅ぼす方法を考えなければ」

 エヴァンの目が窓の外へと向けられる。

 空には炎だけでなく雷や風、光に水と、今まで目にしたことのない強い魔法が放たれている。あの場に入り、ノエルやファルシのように立ち回ることなど、騎士団の人間には不可能だろう。

 ──どうしたら、あの竜を封じることができるのだろうか。

 今すぐに出来ることがあるとしたら、ルーチェの身を竜に捧げ、再び眠りについている間に、残った人たちに方法を見つけ出してもらうことくらいだ。

 それならば、今は完全に封じることはできなくとも、十五年の猶予ができる。