亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「──ルーチェ」

 冷たい、冷たい秋の風が、ふたりの銀色の髪を撫でつける。

 ルーチェはゆっくりとヴィルジールと目を合わせ、長い睫毛を震わせた。

「……なんでもありません。とにかく、騎士団の皆さんは竜には手を出さないでください。常人を逸脱したノエルとファルシ様くらいでないと、竜とは渡り合えません」

「ヘイデン。そのようにしろ」

「はっ、畏まりました」

 ヘイデンが一礼して立ち上がる。ヴィルジールがマントを翻すと、騎士たちは揃って敬礼をした。その中を颯爽と突き進むヴィルジールは、やはりとても格好良くて。

 いつまでも見ていられたらと、浅ましい願いを抱いてしまった。

「──陛下!ルーチェ様!!」

 ホールに入ると、真っ先に駆け寄ってきたのはエヴァンだった。非常事態でそれどころではなかったのか、髪は乱れシャツのボタンも掛け間違えている。

「悪い、遅くなった」

「今しがたマーズに連絡を飛ばしたばかりなのに! こんなに早く戻ってきてくださるとはっ……」

「感動するのは後にしてくれ。ヘイデンから報告は聞いているが、被害はどれくらいだ?」

 エヴァンは切り換えるように咳払いをしてから、今の状況を話していった。