亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 城門を潜ると、そこには何隊もの騎士団が既に列を作り、その先頭ではダークブルーの髪の男が声を張り上げていた。

「ヘイデンッ!!」

 ヴィルジールの声に、ヘイデンと呼ばれた男は弾かれたように振り返る。

「──皇帝陛下!?」

 ヘイデンはヴィルジールの傍まで駆け寄ると、剣を置いて膝をついた。彼が身に纏う鎧には、見覚えのある紋章が彫られている。それは以前、ここでアスランと初めて会った時に目にしたものと同じだ。

「──状況は」

「はっ! セシル王子と宰相様の指示により、城下の民は防壁内に避難させました。第三から第八騎士団が治癒師を連れて警護と救援に、我ら第一騎士団は竜の討伐に向かいます」

「なりません!」

 ヘイデンの報告を遮ったのは、ルーチェの涼やかな一声だった。

 どういうことかと、ヴィルジールがルーチェを見つめる。

「討伐してはなりません」

「せ、聖女様? それは一体どういう……」

「あの竜は、ただの竜ではないのです。その腰の剣では、ましてや人の子の力でどうにかできる相手ではありません」

 ならば一体どうしたら、と項垂れるヘイデンを見下ろすルーチェの目には、強い意志の光が宿っていた。

 その眼差しを見て、ヴィルジールはごくりと息を呑み──そしてルーチェの手首を掴んだ。