亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 イージス神聖王国の聖女は、十五年ごとに生まれては、生け贄となって死ぬ宿命だ。聖女と聖王は比翼の鳥である為、どちらかが欠ければもう片方も命運を共にするのだろう。

 だが、ファルシは一度だけ見たことがあるのだ。光のような黄金色の髪と碧の瞳を持つ者が、白い衣を纏う瞬間を。

 ──あの者は何だ?

 そう問うたファルシに、神官の一人がこう返した。

 ──あれは使命を終えた者にございます。使命を終えた者は、身を清め、国と貴方様にお仕えするようになるのです。
 ──髪と瞳の色が私と同じだったように見えた。
 ──気のせいでございましょう。貴方様と同じ色を持つ者など、この国にはおりません。

 その時の神官との会話には、ずっと引っ掛かるものがあった。だがそれからのファルシは、外から連れてこられたフィオナを守ることだけで精一杯で。日々同じことを繰り返す神官たちのことなど、次第にどうでもよくなっていった。

 ──だけど。もしも、神官たちの正体が、“聖王の役目を終えた者”たちだとしたら。

 そう仮定すると、聖王と聖女を白い箱庭に閉じ込め、やがて迎える儀式のために教えを説いていく彼らの姿には納得できるものがあるのだ。

「──イージスの神を騙る者よ。お前の正体は、はじまりの聖王ではないか?」

 ファルシの問いかけに、竜は瞳を夢見るように見開かせた。