亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「ファルシ様……、腕を、どうされたのですか」

 ファルシは碧色の瞳を和らげながら、首を左右に振った。

「私のことはいいんだ。腕一本くらい、問題はないから」

「そういうことではないのです! 一体いつ、どこでっ……」

 本来ならば腕があるはずの服の部分を、ルーチェは涙目になりながら掴んだ。さいごに会った時には、確かにあったのに。

「問題ないと言っただろう。それよりも、早く此奴を──」

 ファルシの目が竜へと向けられる。

 竜は何事もなかったかのように、ルーチェとファルシを見つめていた。己の爪で腹を裂いたばかりだというのに、その傷はもう塞がっている。

「(──感動の再会は終わったか?)」

「お陰様でね」

「(まさか我の腹の中に居たとは。よくぞ溶けずにいられたものだ)」

「お前がまことに竜だったのなら、間違いなく溶けていたと思うよ」

 どういうことだと、竜が喉を鳴らす。

 ファルシはルーチェを背に庇うようにして前に進み出ると、残った左手に光を灯した。

「神殿はお前という化け物を何百年もの間隠していた。十五年起きに目醒めるお前は、聖女を喰らうことで再び眠りにつく。──それは何故かと、私はずっと考えていたんだ」

 雲隠れしていた月が、黄金色の髪を照らす。

 ファルシは赤く光るオヴリヴィオの大地を一瞥してから、竜を見据えた。