「イージス神聖王国の聖女は、比類なき力を持つと聞く。その特別な力が、国をも滅ぼすことができるというなら、試してみたいことがあったが……記憶も魔力も喪っているとなると、話は終わりだ」
冷ややかな声に、少女は思わず喉を鳴らした。炯々と異彩を放つ鋭い瞳に見下ろされ、身体が強張っていく。
ヴィルジールは冷然とした無表情で少女を見つめながら、形の良い唇を薄らと開いた。
「夜が明ける前に、この国から出て行け。難民の救済は許可してやったが、罪人に衣食住を提供する利点が俺にはない」
「──っ、」
「安心しろ。この国にお前の処刑台はない。亡国の民に見つかる前に、どこへでも行くがいい」
ヴィルジールはマントを翻すと、一瞥をくれて無言で部屋を出て行った。
広い部屋にひとり残された少女は、自分の手のひらを見つめながら、ゆっくりと閉じていった。
(わたしは、なんなの)
イージス神聖王国という国と王を、滅ぼしたかもしれないのが自分で。聖女であった自分には、特別な力があったという。だけれど、今の自分には名前も記憶も失ければ、魔法を使うことすらできない。
ならば自分には何が出来るのか。これから何をするべきなのか。そうこう考えているうちに、ひとつだけ思い浮かんだ。
全てを喪った場所に行けば、何か思い出すのではないかと。
冷ややかな声に、少女は思わず喉を鳴らした。炯々と異彩を放つ鋭い瞳に見下ろされ、身体が強張っていく。
ヴィルジールは冷然とした無表情で少女を見つめながら、形の良い唇を薄らと開いた。
「夜が明ける前に、この国から出て行け。難民の救済は許可してやったが、罪人に衣食住を提供する利点が俺にはない」
「──っ、」
「安心しろ。この国にお前の処刑台はない。亡国の民に見つかる前に、どこへでも行くがいい」
ヴィルジールはマントを翻すと、一瞥をくれて無言で部屋を出て行った。
広い部屋にひとり残された少女は、自分の手のひらを見つめながら、ゆっくりと閉じていった。
(わたしは、なんなの)
イージス神聖王国という国と王を、滅ぼしたかもしれないのが自分で。聖女であった自分には、特別な力があったという。だけれど、今の自分には名前も記憶も失ければ、魔法を使うことすらできない。
ならば自分には何が出来るのか。これから何をするべきなのか。そうこう考えているうちに、ひとつだけ思い浮かんだ。
全てを喪った場所に行けば、何か思い出すのではないかと。


