亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「貴方の目的は私ではないのですか」

「(無論、そうだとも)」

「ならばこれ以上、この地を荒らすのはおやめください。私はもう、逃げませんから」

 ルーチェは右手を差し出した。指先が微かに震えている。いつも通りに息をしているつもりでも、上手く空気を吸えていないのか、胸がいっぱいになったように苦しい。

「(ほう、我のものになると申すか。イージスの神たる我を拒むという、大罪を犯したお前が)」

「──わたしはっ……!」

「(ワタシは、何だというのだ。お前と愚かな男のせいで、イージスの大地は失われたのだぞ。お前たちが大人しくさえしていれば、今頃は新しい王と贄が生まれていたであろうに)」

 竜は嗤う。怯んだルーチェを見て、それはそれは愉しそうに。

(──わたしは)

 ルーチェは唇を噛み締めて、俯きそうになるのを堪えた。

 竜がすべての記憶を取り戻したルーチェを見たら、犯した罪を並べて嗤ってくることは分かっていた。だから何だと返せるような強さも、その口を黙らせる術もルーチェは持ち合わせていない。

 けれど、引くわけにはいかないのだ。

 ルーチェは竜に喰われにきたわけではないのだから。