亡国の聖女は氷帝に溺愛される

 何をされるのだろう。そう思った次の瞬間には、こつんと。ヴィルジールの額が、ルーチェの額に軽く当てられる。

「な、何をするのですかっ……!」

 ルーチェはぱっと顔を赤く染め、口をぱくぱくと動かした。吐息が触れ合う距離に、心臓が悲鳴を上げているのを感じる。

「特に深い意味はないが」 

「は、恥ずかしいので、やめてくださいっ」

「何故恥ずかしいんだ」

「それは……」

 こんなにも胸が高鳴る理由は、分かっている。それは相手が、他の誰でもない──ヴィルジールだからだ。

 かつてルーチェの隣にいた人の傍では、初めからそこに居たかのような安らぎを感じていたが、ヴィルジールは違う。彼だけが、ルーチェをおかしくさせる。

「それは、何だ?」

 ヴィルジールの大きな手が、ルーチェの髪を優しく撫でる。壊れ物に触れるかのような手つきに、頬を擦り寄せたくなってしまったが、唇を引き結んで耐えた。

 いつからだろうか。触れられることに、見つめられることに、幸福を感じるようになったのは。

「またいつか、来れたらいい。……この国の星空は悪くない」

 そう言って、ヴィルジールがまぶたを下ろす。

 共に来よう、と言わなかった理由を尋ねる勇気は、一欠片も湧きそうになかった。

 ルーチェは瞬きとともに涙を一雫、外に弾き出した。