亡国の聖女は氷帝に溺愛される

「ウィンクルムの花が城にたくさん咲いているのは、ヴィルジールさまのご指示ですか?」

「ああ。母が好きだったからだというのもあるが、花を咲かせ続けることで、誓っている。……死んだ家族にな」

 どちらのものなのか分からない小さな吐息が、夜風にさらわらる。

 ルーチェはそっと、ヴィルジールの右手に触れた。秋の夜の冷たさに体温を奪われてしまったのか、彼の手はとても冷たかった。

「長い歴史の中で、ウィンクルムの花は何度も人々の飢えや病を救ってきた。民を飢えさせない、民を救える病で死なせない──そんな皇帝であろうという、誓いのようなものだな」

 どちらからともなく、指が絡まっていく。ヴィルジールの手を暖めるには、ルーチェの手は小さく、包み込むことすら出来なかったが、それでも繋いでいた。

 繋がれた手の向こうにあるものに、熱を灯すことは出来るはずだと、ルーチェは信じているから。

「……冷酷で、無慈悲だと最初に言った人に、聞かせて差し上げたいです」

「それはエヴァンに流させたものだ。恐ろしいと知っていて、進んで近づこうとする人間はいないと思ったからな」

 ルーチェは弾かれたように顔を上げた。

 ヴィルジールの目は星の瞬く夜空へと戻されているが、その美しい瞳を独り占めできる方法を思いついたルーチェは、繋いだ手にきゅっと力を込めた。