亡国の聖女は氷帝に溺愛される


 ヴィルジールとルーチェを歓迎する宴は、マーズに到着してから二日目に催された。初日は旅の疲れを癒してほしいという長老からの気遣いで、夕食は個別に取り、各自で自由に過ごしていた。

 夕食会では長老がノエルの幼少期の笑い話を披露してくれた。ノエルは顔を真っ赤にしながら長老を止めようとしていたが、長老に付き従う精霊に擽られたり顔に落書きをされたりと邪魔をされ、子供のように口を尖らせていた。

 ヴィルジールもさすがに笑いを堪えきれなかったようで、口元を隠しながら肩を揺らして笑っていた。

 夕食会の後、湯浴みを終えたルーチェは、ヴィルジールに誘われて散歩に出た。マーズの城は代々の長老によって強大な結界が張られている為、護衛をつけずとも安心して出歩くことができるのだ。

 満天の星空の下をふたりきりで歩いていると、ふとヴィルジールが足を止めた。その目は夜空へ向けられている。

「マーズは星が綺麗に見える」

 ルーチェも空を見上げた。夜空に浮かぶ無数の星々は、眩い光を放っている。小さくとも美しく、赤に青、黄色と多彩な色がはっきりと見えた。オヴリヴィオよりも星を近くに感じる。

 ルーチェは夜空からヴィルジールへ、そっと目を移した。

 月も星も美しいが、それらを背に佇むヴィルジールの方が、もっと美しく思えたからだ。