「……皇帝、陛下」

 氷帝・ヴィルジール。さらりと流れる白銀の髪と冷たい青い瞳を持つ、このオヴリヴィオ帝国の皇帝。城の奥深くにいるはずの人が、目の先にいる。

「下がれ」

 有無を言わせない声に、セルカは迅速に出ていく。入れ替わるように部屋に入ってきたヴィルジールは、ベッドの前まで来ると、腕を組んで少女を見下ろした。

「訊きたいことがある」

「何でしょうか」

 少女はゆっくりと上半身を起こして、ヴィルジールを見上げる。

 ヴィルジールは無言で少女を見つめていたが、すぐ近くにあった椅子を引き寄せ、そこに座った。長い脚を組むと、今度は何かを考え込む様子で見てくる。

「魔法を使えなくなっているとか」

「そのようですね。診てくださったお医者様の見立てによると、枯れてしまっているようです」

「それに関して、思い当たることは?」

 ヴィルジールは何を知りたいのだろうか。彫刻のように輝く美貌の主に見つめられ、緊張してきてしまった。

「ありません。ですが、先生はこう仰っていました。とても大きな力を使ったのでは、と」

「その力が、聖王と国を消し飛ばしたのか」

 分かりません、と。何度目か分からない返しをして、少女は目を逸らした。